通勤ラッシュをすり抜けて出発

伊勢道の松阪インターを下りると、市街地はすでに動き始めていた。通勤時間帯。車が多い。

「悪いね、俺は休みなんだ。皆さんごくろうさん」

優越感に浸りながら市街地を抜け、明和町にある大仏山公園 新池駐車場に到着した。
まだ車は一台も停まっていない。
公園散策用の駐車場だが、半日ほど使わせてもらうことにした。
サイクリングも散策といえば散策だ。

自転車を車から降ろし、装備を整える。8:30、いざ出発。

今日のルートは、ここから北上して明和町と松阪市でポケふたを1枚ずつ回収し、その後海に出て海沿いを南下してくる約50kmの行程だ。
膝への負担を考え、獲得標高を抑えたほぼ平坦なルートを設定した。
最初に走りにくい市街地をこなし、帰りは海沿いを流す。
悪くない段取りだ。

走り出すと、涼しい風が体に当たった。天気も良い。相棒のサイコンが前を向いて案内を始めた。

ポケふた2枚、順調に回収

10分ほど走って、いつきのみや地域交流センターに到着。
ここに1枚目のポケふたがある。事前に場所は調べてある。
自転車と並べて記念撮影をすませた。

近くには「さいくう平安の杜(もり)」がある。
斎宮(さいくう)跡を整備した史跡公園だ。

古代にタイムスリップしたような静けさの中、振り返ると近鉄電車が走っていた。
千年以上の時間差が、何の違和感もなく同じ風景に収まっている。トイレを借りて再出発。

住宅地の中を走っていると、伊勢街道の案内板が目に入った。古より幾多の旅人が伊勢参りで歩いた道だ。目を閉じると、草鞋(わらじ)の音が聞こえてきそうな気がした。

その後は車の多い幹線道路が続く。安全のため歩道を走るが、交差点ごとに現れる段差がじわじわとダメージを蓄積させてくる。まぁ、ゆっくり行こう。

県道756号線を走り、阪内川を渡って鈴の森公園へ。公園の入り口近く、噴水のそばに2枚目のポケふたを確認した。

自転車を噴水前に並べて撮影。本日の任務、あっけなく完了。

噴水を眺めながら日陰のベンチでしばし休憩した。
天気は良いが、そこまで暑くはない。
スポドリを買おうかと思っていたが、まだ喉も渇いていない。
いい気候だ。

走っていると、一か所妙な踏切に差しかかった。
近鉄とJRが共同で使っている踏切で、ちょうど警報音が鳴って遮断機が下りた。

近鉄が一本、JRが一本、それぞれ通過していく。
プレートを見ると「極楽町踏切」とある。

……なんだか怖い名前だな。

松坂港から海沿いへ、津波避難所が目に入る

阪内川沿いを河口へ向けて走る。
対岸に渡ると自転車道になり、やがて港の雰囲気が漂い始めた。
道が広くなり、大型車が数台走っている。

松坂港に着いた。
セメント工場が並び、大型船から原料を降ろしているようだった。
工業の匂いのする港だ。

その後、住宅地を抜け、田んぼの景色の先にある堤防のスロープを登っていくと——突然、目の前に海が開けた。バーンと。

いいじゃないの、この感じ。

そこからは海沿いを南下した。
やっぱり海はいい。
なんか落ち着く。
なんでだろう。
泳ぎはうまくないし、放り込まれたら泡と化す。
怖いところのはずなのに、なんかいい。
たまに釣り人が竿を出していた。
砂地の海底に見えたので、キスでも狙っているのだろうか。

走っていると、海沿いの住宅地の中に津波緊急避難所が現れた。
「海抜8.6m」と書かれている。
東南海地震に備えての施設だ。
こういうものを目の当たりにすると、なんか生々しい。
遠い国のリスクではなく、この国のすぐそこにあるリスクだと、改めて感じる。

しばらく進んで北藤原海浜公園に屋根付きの休憩所があったので、腰を下ろした。
海沿いだから松林の日陰がたくさんあると思っていたが、まったくなかった。
だからありがたい。

香蘭の鶏肉炒飯800円と、金縁のコーヒーカップ

そろそろ腹が減ってきた。
Googleマップで検索すると、近くに中華料理店「香蘭」があった。
サイコンのルートから外れて、スマホを頼りに走る。

赤い外壁の、年季の入った建物。11:40到着。

扉を開けると、カウンター3席はすでに埋まっていた。
座敷のテーブルも1席は先客あり。
申し訳ない気持ちで一人座敷に座り、鶏肉炒飯(税込800円)を注文した。

水を一杯、すぐに飲み干した。二杯目もすぐに開けた。やはり喉が渇いていたらしい。

10分ほどで炒飯が運ばれてきた。
こじんまりした山盛りの炒飯の上に、小ぶりの鶏唐揚げが輪を描くように並び、その真ん中に卵黄が鎮座している。卵黄を崩しながら食べる。

町中華にありがちな油ギトギトを予想していたが、さっぱりしている。
優しい味だ。
なのに旨味はしっかりある。
卵黄のまろやかさと、鶏唐のアクセント。
スープも熱くて旨い。
炒飯の量は少し物足りないかと思ったが、五十過ぎのおっさんにはちょうど良かった。

食べ終わりが近づいた頃を見計らって、金縁の白いカップが運ばれてきた。ホットコーヒーだ。

……こんなサービスもあったの?

チャーハンの後にコーヒー。初めての組み合わせだが、悪くない。
むしろいい。
店員さんたちの見た目からは想像できなかった(おいおい、失礼だろう)、この全体的な優しさが妙に嬉しかった。ごちそうさまでした。

再び自転車にまたがる。ゴールまではもうわずかだ。
いつきのみや地域交流センターから来た道を戻り、12:30に大仏山公園 新池駐車場に帰着。
駐車場には3台ほど車が増えていた。

自転車を積み込んで、パソコンでメールチェックをしてから帰路についた(平日に休みを取るとこの作業が辛いなぁ)。

走行距離51.33km
走行時間2時間44分
獲得標高113m

帰りの車の中で、腹にズシーンとくるものを感じた。
やっぱり油はたっぷり使っていたんだろう。
それでもあのあっさり感は本物だと思う。
そう考えながら、松阪を後にした。