伊勢街道から伊勢湾へ〜明和・松阪51kmとコーヒーを出す町中華
通勤ラッシュをすり抜けて出発
伊勢道の松阪インターを下りると、市街地はすでに動き始めていた。通勤時間帯。車が多い。
「悪いね、俺は休みなんだ。皆さんごくろうさん」
優越感に浸りながら市街地を抜け、明和町にある大仏山公園 新池駐車場に到着した。
まだ車は一台も停まっていない。
公園散策用の駐車場だが、半日ほど使わせてもらうことにした。
サイクリングも散策といえば散策だ。
自転車を車から降ろし、装備を整える。8:30、いざ出発。
今日のルートは、ここから北上して明和町と松阪市でポケふたを1枚ずつ回収し、その後海に出て海沿いを南下してくる約50kmの行程だ。
膝への負担を考え、獲得標高を抑えたほぼ平坦なルートを設定した。
最初に走りにくい市街地をこなし、帰りは海沿いを流す。
悪くない段取りだ。
走り出すと、涼しい風が体に当たった。天気も良い。相棒のサイコンが前を向いて案内を始めた。
ポケふた2枚、順調に回収
10分ほど走って、いつきのみや地域交流センターに到着。
ここに1枚目のポケふたがある。事前に場所は調べてある。
自転車と並べて記念撮影をすませた。
近くには「さいくう平安の杜(もり)」がある。
斎宮(さいくう)跡を整備した史跡公園だ。
古代にタイムスリップしたような静けさの中、振り返ると近鉄電車が走っていた。
千年以上の時間差が、何の違和感もなく同じ風景に収まっている。トイレを借りて再出発。
住宅地の中を走っていると、伊勢街道の案内板が目に入った。古より幾多の旅人が伊勢参りで歩いた道だ。目を閉じると、草鞋(わらじ)の音が聞こえてきそうな気がした。
その後は車の多い幹線道路が続く。安全のため歩道を走るが、交差点ごとに現れる段差がじわじわとダメージを蓄積させてくる。まぁ、ゆっくり行こう。
県道756号線を走り、阪内川を渡って鈴の森公園へ。公園の入り口近く、噴水のそばに2枚目のポケふたを確認した。
自転車を噴水前に並べて撮影。本日の任務、あっけなく完了。
噴水を眺めながら日陰のベンチでしばし休憩した。
天気は良いが、そこまで暑くはない。
スポドリを買おうかと思っていたが、まだ喉も渇いていない。
いい気候だ。
走っていると、一か所妙な踏切に差しかかった。
近鉄とJRが共同で使っている踏切で、ちょうど警報音が鳴って遮断機が下りた。
近鉄が一本、JRが一本、それぞれ通過していく。
プレートを見ると「極楽町踏切」とある。
……なんだか怖い名前だな。
松坂港から海沿いへ、津波避難所が目に入る
阪内川沿いを河口へ向けて走る。
対岸に渡ると自転車道になり、やがて港の雰囲気が漂い始めた。
道が広くなり、大型車が数台走っている。
松坂港に着いた。
セメント工場が並び、大型船から原料を降ろしているようだった。
工業の匂いのする港だ。
その後、住宅地を抜け、田んぼの景色の先にある堤防のスロープを登っていくと——突然、目の前に海が開けた。バーンと。
いいじゃないの、この感じ。
そこからは海沿いを南下した。
やっぱり海はいい。
なんか落ち着く。
なんでだろう。
泳ぎはうまくないし、放り込まれたら泡と化す。
怖いところのはずなのに、なんかいい。
たまに釣り人が竿を出していた。
砂地の海底に見えたので、キスでも狙っているのだろうか。
走っていると、海沿いの住宅地の中に津波緊急避難所が現れた。
「海抜8.6m」と書かれている。
東南海地震に備えての施設だ。
こういうものを目の当たりにすると、なんか生々しい。
遠い国のリスクではなく、この国のすぐそこにあるリスクだと、改めて感じる。
しばらく進んで北藤原海浜公園に屋根付きの休憩所があったので、腰を下ろした。
海沿いだから松林の日陰がたくさんあると思っていたが、まったくなかった。
だからありがたい。
香蘭の鶏肉炒飯800円と、金縁のコーヒーカップ
そろそろ腹が減ってきた。
Googleマップで検索すると、近くに中華料理店「香蘭」があった。
サイコンのルートから外れて、スマホを頼りに走る。
扉を開けると、カウンター3席はすでに埋まっていた。
座敷のテーブルも1席は先客あり。
申し訳ない気持ちで一人座敷に座り、鶏肉炒飯(税込800円)を注文した。
水を一杯、すぐに飲み干した。二杯目もすぐに開けた。やはり喉が渇いていたらしい。
10分ほどで炒飯が運ばれてきた。
こじんまりした山盛りの炒飯の上に、小ぶりの鶏唐揚げが輪を描くように並び、その真ん中に卵黄が鎮座している。卵黄を崩しながら食べる。
町中華にありがちな油ギトギトを予想していたが、さっぱりしている。
優しい味だ。
なのに旨味はしっかりある。
卵黄のまろやかさと、鶏唐のアクセント。
スープも熱くて旨い。
炒飯の量は少し物足りないかと思ったが、五十過ぎのおっさんにはちょうど良かった。
食べ終わりが近づいた頃を見計らって、金縁の白いカップが運ばれてきた。ホットコーヒーだ。
チャーハンの後にコーヒー。初めての組み合わせだが、悪くない。
むしろいい。
店員さんたちの見た目からは想像できなかった(おいおい、失礼だろう)、この全体的な優しさが妙に嬉しかった。ごちそうさまでした。
再び自転車にまたがる。ゴールまではもうわずかだ。
いつきのみや地域交流センターから来た道を戻り、12:30に大仏山公園 新池駐車場に帰着。
駐車場には3台ほど車が増えていた。
自転車を積み込んで、パソコンでメールチェックをしてから帰路についた(平日に休みを取るとこの作業が辛いなぁ)。
走行距離51.33km
走行時間2時間44分
獲得標高113m
帰りの車の中で、腹にズシーンとくるものを感じた。
やっぱり油はたっぷり使っていたんだろう。
それでもあのあっさり感は本物だと思う。
そう考えながら、松阪を後にした。



