船上の朝焼けと、ペダルを回し始める来島海峡大橋

興奮からか、ずいぶんと早く目が覚めた。
スマートフォンを見ると、まだ3時を少し過ぎたところだ。
もう一眠りしようと目を閉じてみたが、どうにも寝付ける気がしない。
時間がただ過ぎていき、3時30分になった。
「……そうだ、風呂へ行こう」
静まり返った船内を抜け、展望風呂へと向かう。
先客は一人だけ。
体を洗い、貸切状態の広い湯船に足を伸ばして浸かる。
「あー……」
思わず声が漏れた。
夜明け前で外は暗く、せっかくの展望風呂からの眺望は望めなかったが、気分は最高だ。
あー、さっぱりした。
風呂からの帰り道、人気(ひとけ)のない吹き抜けのロビーを歩くのも悪くない。

5時前、昨日乗船前にコンビニで買っておいたおにぎり弁当で早めの朝食をとる。
ツナマヨ、昆布、梅干しの王道おにぎり3個に、コロッケ、ウインナー、卵焼きのおかずが嬉しい。
やっぱり朝は米だ。しっかりと力が入る。

着替えと片付けを完了させると、窓からの景色が良いことに気づいた。
「そうだ、船外のデッキに出てみよう」
時刻は5時30分。
朝陽がやさしく海を照らし始めている。
朝の潮風が心地よい。
曇りの予報を裏切り、青空が広がっている。
これは暑い一日になりそうだ。


下船の放送が入り、ルームキーをフロントに返して3階の車両甲板(しゃりょうかんぱん)へ降りる。
むわっとした熱気が体を包む。
愛車のOutbackを見つけ出し、乗り込んでエンジンとエアコンを始動させた。
6時過ぎ、東予(とうよ)港に着岸。
係員の誘導に従って順番に、ゆっくりと下船していく。
振り返って大きな船体を見上げ、心の中でお礼を言った。お世話になりました。
東予港から今治(いまばり)を目指す。
途中、コンビニでスポーツドリンクを購入し、今治駅近くの駐車場へ到着。
広くて余裕のある駐車場で、自転車を下ろして準備を整える。


忘れ物がないように気を付けて、さぁ行こう。
今日はしまなみ海道の往路。ほぼサイクリングルートのメインルートで尾道を目指す。
予定通り、今治を7時に出発した。
まずは北上し、最初の来島海峡(くるしまかいきょう)大橋を目指す。
案内表示に従って進んでいくと、巨大な橋が見えてきた。
橋へと上がっていく自転車道も見える。


勾配5%ほどの坂道を、円を描きながらゆっくりと上がっていく。
7時30分、いよいよ最初の橋(来島海峡第三大橋)を渡り始める。


朝陽があたって橋が美しく輝いている。
眼下には青い海が広がり、船の往来が多い。
風は穏やか。最高のサイクリング日和だ。
来島海峡大橋は世界初の三連吊り橋で、全長はなんと4105メートル。
来島海峡第三大橋から第一大橋まで連続して渡りきり、大島へ上陸した。

島々を繋ぐ軌跡と、火照る体を癒やすレモンのご褒美

橋を渡り終えると、海沿いの道まで一気に下っていく。
これから先の橋も、渡るために自転車・歩行者用の道を上がり、渡り終えると下るという繰り返しだ。
本日の獲得標高のほとんどは、この「橋を渡るため」にある。
大島は島の中央部を北上するため、あまり眺望は良くない。
島中央の宮窪(みやくぼ)峠を抜け、宮窪の街へ出てからは海沿いの道が続く。
次に渡る伯方・大島大橋が見えてきた。


大島大橋を渡って伯方島(はかたじま)へ到着したのは8時40分ごろ。
伯方の塩ソフトクリームを食べたかったが、朝早すぎて店が開いていなかった。
早朝の出発は涼しくて時間を有意義に使えるが、店が開いていないことがあるから注意が必要だ。
そのまま進むと、あっという間に次の橋。


アーチ橋の大三島(おおみしま)橋を渡り、9時ごろ大三島へ上陸した。
大三島の東岸を北上し、9時30分ごろ「道の駅多々羅(たたら)しまなみ公園」で休憩をとった。
今日は暑い。日差しもきつい。
移動販売車でみかんジュースやシャーベットを販売していたので、シャーベットを購入した。
600円なり。


冷たく甘酸っぱいシャーベットが、火照った体に染み渡る。体の熱がすーっと冷めていく。
サイクリストの聖地モニュメントで順番待ちをして、多々羅大橋をバックに写真撮影。


レストランの海鮮定食が美味しそうだったが、11時から開始とのことでまだまだ時間がある。
10時からフードコートでバーガーの提供が始まったので、「レモンじゃこカツバーガー」(750円)を注文した。


愛媛名物のじゃこカツに、レモン風味が効かせてある。
タルタルソースと相まって、爽やかな風味でなかなか美味しい。
道の駅ではすっかり1時間ほど長居して体力回復し、再び出発。


多々羅大橋を渡り、生口島(いくちじま)へ向かう。
橋の途中に広島県と愛媛県の県境があった。ここから広島県だ。
なんだろう、県境を越えるときのなんともいえない高揚感。


生口島へ到着すると、レモン畑が迎えてくれた。
国産レモン発祥の地らしい。まだ実は青いが、確かにレモンが木になっている。
島の西岸を海岸沿いに北上する。
途中、南国風の木が植栽してある木陰で休憩をとった。熱中症だけは気をつけねば。


進んでいくと、島一番の町、瀬戸田(せとだ)の市街地に入った。
観光案内所前でレモンのオブジェを発見。「さすがレモンの島だ」と感心する。


街を越えて少し行くと、「しまなみドルチェ本店」を発見して入店した。
手作りジェラートが評判の店だそうだ。


一番人気の「伯方(はかた)の塩」と「瀬戸田のレモン」のダブルを注文。
普段ならダブルを頼むことはないが、サイクリング中はカロリー制限なしだ。
すぐに手渡してくれ、店内の椅子に着席。
スプーンで口に運ぶと、口当たりがとても滑らかで美味しい。


なんでもイタリアの高級機械を導入しているそうで、きめ細かいジェラートができるのだとか。
クーラーの効いた部屋で体の芯も冷えたので、元気よく再出発。
生口橋を渡って因島(いんのしま)へ入る。
途中、メインルートを外れて海べりルートへ。潮風が心地よいが、とにかく暑い。
水筒の中も空っぽ間近。体が暑くしんどくなってきた。
どこか休める場所を探していると、高速のPAを発見。
因島大橋へ向かう曲がり角をそのまま進み、PAへ向かう道へ入ったのだが……。
勾配10%超えのいきなりの急坂に心が折れる。
無理せず自転車を押して上がり、PA裏手の木陰に自転車を停めて「大浜PA」へ駆け込んだ。


建物内はクーラーが効いていて涼しい。
ただ椅子がないためゆっくり休めないのが残念だ。
店内の土産物を見て回り、レモンソーダを購入して店外であっという間に飲み干した。
まだ体は暑いが、だいぶ回復した。スポーツドリンクも水筒に補充し、いざ出発だ。
坂を下って元の道に合流し、因島大橋を渡る。
因島大橋は、しまなみ海道の橋で唯一「自転車歩行者用道路」が車道の下に設置されている珍しい構造だ。


1983年の開通当時は東洋一の規模を誇り、その後の瀬戸大橋や明石海峡大橋に技術や経験が活かされたそうだ。
そんな歴史的に重要な橋を渡り、いよいよ最後の島である向島(むかいしま)へ。
まだ13時半。少しペースが早かったか?
もっといろんな所に立ち寄った方がいいのかもしれないが、走り始めるとズンズン突き進んでしまう。
また、汗びしょびしょなので店に入るのを遠慮してしまうのもある。
とにかくしまなみ海道サイクリング往路の終わりが近い。じっくり味わっていこう。

日常に溶け込む110円の渡し船と、尾道水道を見下ろす部屋飲み

きれいな砂浜沿いを進む。前方には向島大橋が見える。
赤い色の鉄橋で、渡れば岩子島(いわしじま)へ行けるらしい。


時間があるので寄り道しようかとも思ったが、「早くホテルに到着してビールを飲みたい」という気持ちが勝ってしまった。
海沿いの道からそれて東へ進み、向島の中心の街に入っていく。
自転車は渡し船に乗るよう案内が出ている。
案内通りに左折し北上していくと、13時50分に渡し船乗り場に到着した。
看板には「尾道駅前行き」と書いてある。


10分ほど待つと、渡し船が現れた。
どこか中華風な外観なのは、なぜだろう。以前は観光船だったのだろうか?
到着すると、学生たちがぞろぞろと降りてきた。
全員降りるのを待って、こちら側から乗り込む。乗客は10人ほど。
自転車はそのまま押して載せ、すぐに船は出発した。


船内で料金を払う。大人運賃100円+自転車積載料金10円の、合計110円。
「……そんなに安くていいのか?」
川のような狭い尾道水道を進み、あっという間に海に出た。
目の前は本州、尾道の街はすぐ目の前だ。
ほんの5分程度で尾道駅前に到着。
乗っていた人たちが降りると、待っていた人たちがすぐ乗り込み、休む間もなく出航していく。
時刻表はなく、ほぼ12分間隔で行き来しているそうだ。
まさに、生活の足。
渡し船が日常に溶け込んでいる。こんな日常が日本にあるんだなぁと感慨深く思った。


とりあえず、しまなみ海道の往路を走破!

渡し船の桟橋のすぐそばに、今日泊まるホテルがあった。
入り口に自転車を止め、階段を上がってフロントへ。
自転車をどこに止めるか聞くと、正面玄関からエレベーターに乗って、フロント横の自転車置き場に止めるよう指示された。
指示に従って自転車を置き、時計を見る。
チェックインは15時から。まだ14時半なので部屋には入れない。
とりあえず今日の夕食を買いに、近くのイオンに行くことにした。
Googleマップで調べると徒歩11分。
行って買い物して帰ってくれば、ちょうど15時過ぎになる。ジャストじゃないか。
暑い中、汗をかきつつ歩いて行く。全ては美味しいビールを飲むためだ。
イオンに到着し、今日の晩御飯と明日の朝食を物色する。
やっぱり海の新鮮な幸が食べたい。
そこで目についた地元・広島県産鯛の刺身を手に取り、さらに寿司パックを2つ、惣菜を3パック買った。
ちょっと買いすぎかなと思ったが、いつも足りなくなるのでこれぐらいでいいだろう。
なにしろ今日はサイクリングでカロリーを大量に消費しているはずだ。
これもサイクリングの好きなところ。
いっぱい体を動かし、たらふく美味しいものをお酒と楽しむ。うーん、人生の楽園だ!
重いお酒と水は、ホテル近くのコンビニで買うことにする。
買い物を終え、暑い中ホテルに向かって歩く。
途中のコンビニでビール(金麦)500ミリリットルを2本、日本酒のワンカップを3つ、水を1リットル購入。
両手に食品をぶら下げてホテルに戻ると、ちょうど15時を少し過ぎていた。
チェックインを済ませて部屋に上がると、非常に眺望の良い明るい部屋だった。
奮発して少し割高な海側の部屋にした甲斐がある。


窓からは尾道水道が見渡せ、さっき乗った渡し船が走っているのが見える。
その他にも漁船やプレジャーボート、高速船など、ありとあらゆる船がこの狭い水路を行き来している。
とりあえず風呂に入り、汗をさっぱりと流した。
風呂から上がると、少し早いが15時40分頃から今夜の宴(うたげ)を開始。
ホテルの同じフロアにあった電子レンジで、買ってきた鶏肉とふぐの唐揚げを温める。
まずは、これらのおつまみでビールを乾杯だ。


もも、ハツ、せせりの焼鳥がビールに合う。
塩こうじチキンスティックはさっぱりした感じでどんどん食べられる。
ふぐの唐揚げはこの土地ならではのご馳走だ。中央の骨に気を付けながらかぶりつく。
ビールが進み、あっという間に2本目へ。
窓からの風景が最高で、行き交う船を見ていると飽きが来ない。


ビールが終盤に差し掛かった頃、いよいよ日本酒へ移行する。
それに合わせて刺身とお寿司を取り出した。


まずは呉(くれ)のお酒「千福」。美味しい。魚に合う。


次は岡山の「賀茂緑(かもみどり)」。うん、これも旨い。


最後は三原の「酔心(すいしん)」。


酒を楽しみながら、ペロリと寿司がなくなった。
うーん、大満足。

絶景の三重塔と、ほろ酔いで歩く笑顔あふれる夜店

時計を見るとまだ18時半。外はまだ明るい。
せっかくの初めての尾道なので、外へ出てみることにした。
とりあえず尾道駅の方へ歩いていくと、浴衣を着た若い子たちがたくさん降りてくる。
祭りでもあるんだろうか。


駅のすぐそばに「古寺巡り」の案内が出ていたので、順路に沿って少し歩いてみる。
尾道特有の坂道に、雰囲気の良い街並み。

石垣が立派な場所もある。


いくつかの寺を巡ったが、どこも雰囲気が良い。
やがて、立派な三重塔が現れた。
後で調べると「天寧寺(てんねいじ)」という寺で、なんと1367年に建てられたものだという。
三重塔の向こう側には、向島と尾道水道、そして尾道の街が見下ろせる。


「絶景だ」と感じて夢中で写真を撮ったが、この塔越しの眺めは尾道を代表する風景のひとつだということを後で知った。
酔っ払いオヤジだったが、感性は鈍っていなかったようだ。
坂道を上った甲斐があった。必見の塔だった。
坂道を登ったり下ったりして、すっかり汗だくだく。
全てを回るのは辛いので途中で離脱し、そろそろホテルに戻る道へ進む。
坂道を下りていくと、人がたくさんいる商店街に出た。


夜店がたくさん出ており、お祭り騒ぎだ。
「この商店街を西に進めば尾道駅に戻れる気がする」。酔っ払いオヤジの直感が働く。
家族連れ、カップル、若者のグループなど、様々な人が歩いている。
射的や金魚すくい、ヨーヨー釣りなど定番のお店が賑わい、唐揚げやフライドポテト、生ビールを提供している店もある。
皆、笑顔だ。
幸せそうな皆さんを見ているだけで、こちらも幸せな気分になった。
自然に顔がニコニコしてくる。酔っ払っているせいもあるだろうか?
気づけば1時間ちょっと散歩していた。
汗だくで、喉はカラカラ。
コンビニに寄って500ミリリットルのビール(金麦)を買い足す。
ついでに、冷奴と半額になっていた「鳥と野菜の黒酢あん」も買った。
ホテルに戻ってさっとシャワーを浴び、備え付けの部屋着に着替える。
追加のおつまみとビールで、第二の宴を堪能した。


日本酒換算で6合。ちょっと飲み過ぎたかもしれないが、気分は最高に良い。
締めのデザートに、ホテルが冷蔵庫で冷やしておいてくれた「はっさくゼリー」を食べる。
はっさくがごろっと入っていて、ジューシーでとても美味しかった。


今日は濃い1日だった。
21時すぎ。そろそろ寝ます。おやすみなさい。

走行距離:77.9km
走行時間:4時間16分
獲得標高:476m