朝のフェリー乗り継ぎと、ゆめしま海道への上陸

5時過ぎ、自然と目が覚めた。
早寝だったおかげで気分は爽快だ。
昨晩は少し飲み過ぎた気もするが、体調はすこぶる良い。
6時前に、昨日イオンで買っておいた税抜き298円の格安お弁当で朝食をとる。
おにぎりはツナマヨ、昆布、梅干しの王道3種類。
おかずも数種類入っているが、やはり卵焼きとウィンナーが格別においしい。
アクセントとして入っている焼きそばも、なんとも良いポジションを陣取っている。


格安弁当をしっかりと堪能した後は、ダラダラしつつ出発の準備を整える。
昨晩に引き続き、ホテルが提供してくれたはっさくゼリーを朝のデザートにいただいた。
部屋がダブルだったため、冷蔵庫に2個入っていたのだ。
なんという贅沢だろうか。
体調も万全に整い、6時45分にホテルをチェックアウトする。
自転車と一緒にエレベーターに乗り込み、1階へ下りた。
ホテルのすぐ下のフロアが、因島へ向かうフェリー乗り場になっている。
少し戸惑いながらも自動発券機でチケットを購入し、待合室で待機する。
ほどなくして案内があり、自転車を押して船へと向かった。
船に乗り込むと、自転車は船尾に立て掛けられた。
今回は俺の1台だけだったが、複数台あったら一体どうやって積むのだろうか。


クーラーがしっかりと効いた座席に腰を下ろし、7時10分に出航。
時速35kmで白波を立てて突き進む船は、とにかく早い。
あっという間に、7時30分には因島の重井(しげい)東港に到着した。
船から自転車を下ろし、足早に去っていく船を見送る。


すでに日差しが容赦無く照りつけている。
装備を整え、いざ出発だ。
30分ほど南へ走り、土生(はぶ)港へ到着した。
親切な船会社の人が自販機を操作してくれ、自転車を含めて130円のチケットを無事に入手する。
すぐ目の前に見える立石(たていし)港から、こちらへ向かってくる船が見えた。


到着すると、乗用車が15台ほど次々と降りてくる。
下船が済むと、今度はこちらの港で待っていた乗用車や歩行者、そして自転車が乗り込み始める。
その際、初老の係員に「左に寄って!」と厳しく注意されてしまった。
「初乗船の客にそんなに厳しくしなくても……」と少し気分を害したが、若い係員が優しく左に寄るよう促してくれ、状況が飲み込めた。
まぁ良い、些細なことで腹を立てないようにしよう。
せっかくの旅が台無しになってしまう。
乗船が終わるとすぐに出発し、わずか5分ほどで生名(いきな)島の立石港に到着した。
トイレを借り、改めて支度を整えて走り出す。

弓削島の激坂と、身に染みる自販機のありがたみ

立石港から南下して生名橋を渡り、佐島へ。
さらに弓削(ゆげ)大橋を渡り、弓削島へ上陸する。
弓削島は、北方向へぐるりと1周してみることにした。
橋のたもとには国立弓削商船高等学校の施設があり、立派な練習船が停泊している。
ちょうどこの日は周辺で漕艇(そうてい)競技会が行われており、とても賑わっていた。
高校生たちが元気な声を響かせながら、一生懸命にカッターを操っている。
周辺には、応援に駆けつけた家族たちの姿もあった。
若い世代が逞しく躍動する姿は、見ていて心強いものだ。
賑わう海を背にして弓削港を越え、さらに北上していく。
途中、道を間違えて遠回りをしてしまった。
ようやく正しいルートに戻ってきたのだが、目の前には「ほんとにこれが正しい道なのか?」と疑うほど細く、えげつない急勾配の道が立ちはだかっていた。
Googleマップで確認しても、どうやらこれが正解らしい。
勾配10%を超えるであろう激坂に、無理をせず自転車を押して歩くことにした。
全身から汗が吹き出す。
木陰を見つけては小休止を挟む。
道路に引かれたブルーラインが正規ルートであることを示しており、間違っていないことに再び安堵する。


その後も容赦ない登り坂が続き、ようやく下りになった。
目の前にパッと雄大な景色が広がった。
風を切って坂道を下っていく感覚が、最高に心地よい。


しかし喜びも束の間、再び厳しい登りが現れ、またしても自転車を押して歩く羽目になった。
ふと前方を見ると、おじさんが一人休憩している。
手にピックを持っていたところを見ると、歩き仕事の途中で休んでいるようだった。
「ここからしばらくは下りですよ」と、おじさんが優しく声をかけてくれた。
その言葉通り、そこから先はずっと下り坂だった。
ついに一番過酷な上りのピークは過ぎたのだ。
その後も細かいアップダウンはあったが、ほどなくして元の弓削大橋にたどり着いた。
橋を渡ってから、佐島の休憩所で一休みする。
「ゆめしま海道」と刻まれた石碑の前で記念撮影をした。


水筒の水が残り少なくなっていたので自動販売機で補充したかったが、残念ながらここには無かった。
どこにでもありそうな自販機が、こんなにもありがたい存在だったとは。
渇きが心に沁みる。

昼食難民を救うレモンシューと、安堵の今治行き快速船

生名橋を渡って生名島の南岸を海沿いに進むと、「YUMMESHIMA IKINA」と書かれたポップな自転車のオブジェが現れた。
バックには、美しくそびえる岩城(いわぎ)橋が見える。


その岩城橋を渡り、今回の島巡りで最後となる岩城島へついに到着した。
坂を下り切ったところで、念願の自動販売機を発見する。
ただ、周囲に日差しを遮る影が全くないため、ここで休憩するのは危険だと判断して先へ進んだ。
結果的に、この判断は正しかった。
やがて岩城市街へ入り、岩城港近くにある「Aコープ」の前に影のあるベンチを発見した。
本日は定休日だが、近くには自動販売機もある。
自転車を止め、すぐさまスポーツドリンクを購入して日陰のベンチに座り込んだ。
冷たいスポーツドリンクが、干からびた体に染み渡る。
生き返る思いだ。
息を吹き返したところで、昼食場所をGoogleマップで探す。
近くに11時開店の、ランチが魅力的な良い居酒屋を見つけた。
11時前にその店へ移動し、自転車を止めてしばらく待っていると店員さんが出てきた。
声をかけて聞いてみると、なんと本日は貸切営業とのこと。
残念すぎる。
すごすごと、先ほどまで休んでいたベンチに戻ってきた。
改めて調べ直すが、他に昼食をとれそうな場所は皆無だ。
頼みの綱のコンビニすらない。
腹が減った。
どうしようか。
とりあえず、この後に乗る予定の岩城港からの船の切符を買いに行くことにした。
岩城観光センターの建物に入ると、クーラーがしっかりと効いていて涼しい。
中には土産物屋があり、乗船券の自動販売機も設置されていた。
ただし、自転車の持ち込みについては窓口へ声をかけるよう記載がある。
窓口に係の人は見当たらなかったので、売店のお姉さんに声をかけてみた。
すると、とても親切に教えてくれた。
なんと自転車の積載は無料らしく、必要事項を「かみじまサイクルフリー券」に記入するだけで済んだ。
ただ、事前調査の段階で、この本船は郵便船を兼ねており、積載できる自転車の数には限りがあるという情報を得ていた。
旅の前から、ずっとそのことだけが心配だったのだ。
もし積載できなかったら、人間だけとりあえず今治まで乗船して車で自転車を回収に来るか、あるいは積載できないことを前提に別の渡し船を乗り継いで自走で今治まで戻るか。
色々とシミュレーションして悩んだ末、最後は「運に任せよう」と諦めていた。
そんな懸念を抱えつつ店内を見渡すと、弁当は無かったが、お腹を満たしてくれそうな洋菓子がショーケースに並んでいるのを発見した。
ラッキーだ。
レモンのシュークリームとオレンジのブッセを購入する。
「ここで食べるなら」と、お姉さんが買った商品をトレイに乗せて渡してくれた。
海の見えるテーブルへ移動し、自動販売機で買った缶コーヒーを添える。


何も食べられないと諦めかけていたところに、思いがけない食事にありつけた。
シュークリームは、なめらかなクリームからほんのりとレモンの爽やかな風味が香る。
ブッセの中には、マーマレードのような濃厚な餡が仕込まれていた。
疲れ切った体に、この甘味が最高に心地よい。
昼食難民を覚悟していただけに、甘いものを食べられたこと、そして何より売店のお姉さんの優しさに、感激もひとしおだった。
船の出航時間までは、まだ1時間以上ある。
でも、居心地の良い涼しい待合室のおかげで、全く苦にならず快適に待つことができた。


船の出発時間の10分前ほどになり、係りの人がやって来た。
前の港を出たタイミングで、自転車を何台載せられるか確認して伝えてくれるという。
少しドキドキしながら待つ。
後ほど無事に自転車を積めるということがわかり、この旅で一番の懸念事項がクリアになって、心の底からホッと安心した。
出発時間の前に自転車を押し、船着場へ向かう。


船はあっという間に近づいてきて、船着場に到着した。
自転車は係りの人が手際よく船に乗せてくれた。
お世話になった岩城港に、心の中でさよならを告げる。

車で駆け抜けるしまなみ海道と、瀬戸PAの絶品真鯛丼

クーラーの効いた快適な船室でくつろぐ。
今治までの乗船時間は、およそ1時間ほどの予定だ。
12時47分に出発した船は、ぐんぐんと速度を上げていく。
およそ時速40キロ。
昨日と今日で乗ったフェリーや渡し船の中で、ダントツで1番早い。
他の島々へ立ち寄りながら、最終目的地の今治港を目指して進む。
青い海と緑の島々が形作る景色が、窓辺を美しく流れていく。
今治の手前では、進行方向の右手に雄大な来島海峡大橋の姿が見えた。
13時40分、船は定刻通りに今治港へ到着した。
本当にあっという間の船旅だった。


船を降りた後、船中で調べておいたランチが食べられそうなお店へと自転車を走らせた。
しかし、無情にも店の前には「ランチ終了」の看板が出ている。
本日2度目のランチがっかり体験だ。
今治駅近くの駐車場に戻ってきたのは、14時前だった。
自転車を愛車Outbackに積み込み、一段落した後に徒歩で今治駅へ向かってみる。
何か食べるところがあればと思ったが、目ぼしい店は見当たらずコンビニがあるだけだった。
ここで3度目のガッカリを味わい、結局飲み物だけを買って車へと戻った。
エンジンを始動し、カーナビの行き先を自宅へセットする。
画面には、しまなみ海道を通って本州へ戻るルートが現れた。
到着予定時刻は夜の8時過ぎを示している。
さぁ、帰ろう。
高速の入り口から乗り込み、車を走らせる。
昨日、汗だくになりながら自転車で向かった来島海峡大橋へ、今度は車で向かっていく。
第3来島海峡大橋も、車で走ると本当にあっという間だ。
横の自転車道には、サイクリングを楽しんでいる人たちがたくさんいる。
クーラーの効いた車で颯爽と駆け抜けるのは快適だが、自転車で走るのとは全然感じが違う。
「やっぱり、風を切って自転車で走る方が気持ちいいかもな」と、サイクリスト目線でそんなことを思う。
途中、瀬戸田パーキングエリアに立ち寄り、ようやく遅めの昼食にありついた。
せっかくなので奮発して、愛媛県産真鯛丼(1800円)を注文する。
番号を呼ばれて受け取りに行くと、想像していたよりもこじんまりとした器の丼だったので少しびっくりした。


でも、一口食べてみると味は凄く良い。
自分で擦った風味豊かな胡麻と、コクのある醤油だれ、ツンとくるワサビ、そして濃厚な卵黄が新鮮な真鯛と相まって、なんともいえぬうま味を引き出している。
大満足だ。
お腹を満たした後はお土産を購入し、再びしまなみ海道を尾道方面へと走る。
尾道へ出た後は山陽自動車道へ入り、ひたすら東へ向かう。
福山サービスエリアで一息ついた後は、ノンストップで一気に走り抜けた。
中国自動車道の宝塚トンネル付近で定番の渋滞が発生していたが、その後は順調に流れ、自宅に帰り着いたのは20時すぎだった。
近所のコンビニでおかずを買って帰宅する。
風呂に入って汗をさっぱりと流した後、冷えたビールで一人乾杯した。
しまなみ海道を駆け抜けた3日間の旅が終わったことをしみじみと思い返しつつ、買ってきた惣菜とビールの美味さを心ゆくまで楽しんだ。

走行時間:2時間22分
走行距離:41.7km
獲得標高:371m